現地は山岳民族が小さな暮らしを営む奥まったエリアと、ハノイのひとや外国人が大きな農園を営むアクセスのいいエリアに分かれていたように思う。
外部のひとが来て開発したエリアはわかりやすく森が失われ開墾された農地となっていた。
ツーリズムが盛り上がればゲストハウスも並ぶのだろう。
森が消失するほどの投資をすればもちろんリターンが必要で、環境負担を背負う気になれるかも気になる。
なるたけ循環型の農業で盛り上がってほしいと思う。
では農園で、大規模な投資に見合う大儲けは可能だろうか。
その後いろいろ考えて、こういうのはどうだろう?というのを思いついたのでメモ代わりに残しておく。
自分もIT屋で業としての農には素人なので、素人の思いつきでしかないがせっかく考えたので(^_^;)
■農業のジレンマ
農業ビジネスの問題は生産物の価格だ。
日本の農家さんもとても労力に見合わず、特に米作りなどやってられないらしい。
大儲けするにはそんな中でどう単価と量を両方確保するか、考える必要がある。
農産物の価格
農産物はほうっておくと常に価格下落圧力がかかる。
なぜかというと常に余ってるくらいに量を確保しないといけないからで、足りなくなるとそれはイコール弱い立場の人びとが飢え出すことを意味する。
災害などでスーパーからモノがなくなったときのことを思うとわかりやすい。
なので基本的に市場には十分以上の生産物が溢れている。
また本当に足りなくなると暴騰することになる。
これも昨今のコメ価格を見るとよくわかるだろう。
なので先進国はけっこう農産物に補助金を付けていて、生産者にも消費者にも価格を安定的に維持できるようにしている(日本はなぜかやらないようだが)。
単価とスケール
日本のように「実は先進国でない」など、なんらかの理由で農産物に補助金を出さないのを前提とすると、市場の需給に影響されない単価維持を考えねばならない。
ベトナムでもこういうこと👇️はいつでも起こるのだ。
スケールについて言うなら、大資本であるならともかく個人や中小企業が参入してとなると規模拡大は簡単なことではない。
特に有機農など慣行農法に比べ非効率な農法だとますますだ。
農協じゃないけれど、やはり自社農園以外との連携が必要なんじゃないだろうか。
さらに生産がスケールしても販売がついていかなければ豊作貧乏が待っている。
単価の高い販路を数多く確保する方法は何か、考えねばならない。
農園ビジネスの単価xスケールの乗算はどんなものであり得るだろうか。
■ブランド:単価とスケールを確保する「場」
単価とスケールを確保する1つの回答はブランディングで、要するに
- ここのなら高く買う
- 同じ値段ならここのを買う
状態をつくる。
コミュニケーションの場
例えばPBのチョコプレッツェルじゃなくてポッキーだとなぜか単価が高くなる。
そのための消費者とのコミュニケーションを、ある名(たとえば「ポッキー」)のもとに連綿と続けると、それがブランドとなる。
ブランドは単なる商品名ではなく、
消費者とビジネスのコミュニケーションの場
であり、そこで生まれる声を聴きながら「ブランドになるものとは何か」を考えることになる。
このブランドだと高単価なのはなぜか、を対話の中から紡ぎ出してゆく。
ブランドとスケール
ブランドは同じものなら自分たちが選ばれるという意味でスケールにも関わる。
農産物の自然に左右される不安定な特性上、1つの価値は安定供給で、必要な量を常に届けられるなら契約だけ先にしてもらえばよい。
その代わりつくれなかったときは自分で市場から調達するリスクが生まれる。
そのリスクを軽減しつつ、きちんと納品し信用を得続けることがブランドをつくる。
それもまたコミュニケーションで、口先だけでないそれを可能とする体制をつくらねばならない。
■コミュニティ化とブランディング
では農産物のブランディングにはどのような可能性があるだろうか。
既に書いた安定供給による信用獲得も1つの方向で、同時に昨今の”物語”の傾向からも1つの可能性が見えると思う。
それらが両立するなら相乗効果を生む。
自社を超える価値
まず押さえておきたいのは、ブランドは自社商品にだけ付くものではない、ということだ。
自社を超えたブランドがあれば、例えば:
- この地域のレストラン
- このグループの掲げる価値
- この地域の生産物
- このグループの生産物
- このビジネスを応援する社会的意味
等々、自社の努力によらない様々な無形の価値が自社にも付いて回る。
自社ではなく自社を含む”自分たち”を選ぶ理由が生まれる。
これは自社以外と協力することで、自然次第で安定供給が難しくなる農産物の安定供給もしやすくなる、ということも意味する。
それはもちろん”自分たち”のブランド価値を高める。
”自分たち”の物語
では”自分たち”とは何で、それはどんな価値を持つのか。
言い古されてるように思うが、何でもどこでも手に入る時代に、物語が生む感覚が差別化を可能にする。
特にコミュニティという”自分たち”の物語は昨今、有効さを増しているようにも思う。
例えば高度成長を迎え大量生産大量消費が離陸するベトナムで、
「地域の自然を守り地元コミュニティを根本から支えるオーガニック」
というのは社会的価値を持つ。
そのムーブメントに参加することは顧客にも「自分たち」の感覚を生むかもしれない。
自社でなく”自分たち”でやることで地道な供給による信用とビジネスを超えた社会的価値の相乗効果を狙うことができる。
それは強固なブランドに支えられた堅調な単価とスケール、さらにそれらに裏打ちされたブランドの信用、という好循環を作り出せるかもしれない。
■販路:ジレットモデルとその応用
社会的価値を持つコミュニティとして安定的な供給や信用が実現したとして、それでも販路が限られていればスケールにはすぐ限界が来る。
販売をスケールするうえで1つよく言われるのはジレットモデルで、ある種のフランチャイズもその応用と考えられる。
替え刃のビジネスモデル
ジレットは言うまでもなく(ないよね?)ひげ剃りのブランドである。
それなりの品質のひげ剃りの本体を安くあるいは無料で配り、大量生産した替え刃で儲ける。
ポイントはロックインで、本体の安さや品質、本体に合う替え刃の作りにくさ等が汎用品に取って代わられる障壁となる。
「本体」と「障壁」とは何か?と考えると、いろいろ応用が可能なビジネスモデルでもある。
フランチャイズとロイヤリティ
ひげ剃りの本体と替え刃はB2Cのモデルだが、それを拡張してB2B2Cに応用することもできる。
安価に配る本体がサービス業で、替刃が製造業、つまりフランチャイズにモノを卸すという業態だ。
何を言ってるかと言うと、自社製品の小売でまず成功例をつくる。
それを超安価なロイヤリティでフランチャイズする。
ただしフランチャイジーには必ず自社の製品を小売してもらう。
- 本体:成功確率が高くロイヤリティが低いB2Cモデル
- 替え刃:自社製品
ということで、スケールするのは大量生産する自社工場のほうになる。
■フランチャイズで販路をスケールアップ
ジレットモデルを農園ビジネスに当てはめると、例えば自社農園と都市部でのレストランのような業態が考えられる。
「成功するレストラン」がカミソリ本体、それを安く配って替え刃、つまり自社農園の農産物を卸す。
まずレストランを成功させねばならず、スケールするうえでフランチャイジーがロックインしたくなる方策も必要となる。
レストランという本体づくり
自分もレストラン経営は素人だが、
- ミクロには成功した流行り物を研究する
- マクロには食料の需要のでかさから推論する
みたいな方法があるようだ。
他にも様々な成功ポイントがあるだろう。
そのノウハウがジレットモデルの「本体」となり、魅力的であるほどに顧客ロックインのインセンティブとなる。
またレストランが成功したとして、フランチャイズビジネスのロイヤリティ料率の調査も必要だ。
その条件もまたロックインの条件となるからだ。
ちなみに飲食じゃないが某有名フランチャイズで料率1%とかあるんですって。
それはめちゃめちゃ安いらしく、先行して成功すると後追いはかなり苦労することになる。
なので飲食なら飲食の業界(たとえば「ベトナムのこの地域の飲食店」とか)で障壁となりうる料率を考える。
FSPと共通ポイント
またよくあるロックインの手段としてFSP(Frequent Shoppers Program)、要するにポイントカードがある。
FSPの1つの流れは共通ポイント化で、自店舗だけでなく他店とも共通にするとそれは強い障壁となり得る。
楽天ポイントとか有名ですね。
要するにフランチャイジーにロイヤリティ払えば無償でもらえるFSPアプリを配る。
エンドユーザ(レストランのお客さん)に共通ポイントを提供して囲い込み、プラス「この店で使ってる高品質な有機農産物」みたいな直販にも使える。
フランチャイズ以外にも展開できればさらに強い障壁となる。
まとめて言うとフランチャイズで量を確保するために、自分とこのフランチャイズでいたい環境をつくるということだ。
こうしてレストランのビジネルモデルが成功すればそれが「本体」となる。
それをタダみたいな値段で配り、そこに自社の農産物だけを卸すよう契約する。
農産物供給側としての信用だけでは得られない、スケールアップの道が切り拓かれる。
■コミュニティのメディア:ジレットモデルを超える
社会的価値を帯びたジレットモデルのフランチャイズが成功すると、協業する農園(供給側)・フランチャイジー(販路)・最終顧客が大きなコミュニティとして浮かび上がる。
農産物はフランチャイズに卸してもいいし、高まったブランド価値に応じた単価で直売してもいい。
そしてWebやSNSが大きな力を持つ時代において、それらを駆使しさらに”自分たち”を超えた商圏をつくることも可能だろう。
自社から社会へ
コミュニティ的なブランディングには、ムーブメントの依代になるようなビジネス同士の結びつきをつくりコミュニティとして浮かび上がらせる、メディアが必要となる。
先述したFSPはそうしたメディアの1つで、ポイントという実利でまず結びつき、そこで得られた体験がさらに人びとを巻き込む。
ポイントが共通化されネットワーク効果を持つととに、可視化されたネットワーク自体が価値の依代となりうる。
さらにFSPポイントをフランチャイジー以外にも使えるようにする(より広い共通ポイント化)と、自分たちへのロックインだけでなく地域自体の集客やブランディングにも使える。
ある地域、あるいは生産地でも消費地でもいいが、そこを支えることが価値となりそれにポイントが使える。
といった具合にお得と価値が両立し相乗効果を持つと強い。
そのためには現代の社会に響く価値を帯びたブランドが必要となるだろう。
それはおそらく自社名や商品名ではない。
FSP、Web、SNS
例えば「屋根千」という、メディアによく取り上げられる地域がある。
そこの個人商店にFSPを使ってもらいポイントを共通化すると、個々の商店でなく「その界隈」が意識に立ち上がる。
1つ1つの消費に、屋根千のコミュニティや町並みの維持に貢献するという価値が付加される。
どこそこの安心安全な生産地の農産物を使ってますよ、みたいなことを価値として付け加え、その生産物の直販もポイントを使えたりするとさらにブランド化できかつスケールする。
ポイントはメディアなのでそれがFSPだけである必要はない。
👇️には温泉地の振興のためのインタビューサイトをつくる例が出てくる。
自社の企画としてコミュニティ全体をカバーする発信をしていて、そうした方向性は共通FSPポイントと親和する。
日頃からWebやSNSで自分たちの価値観を帯びたコンテンマーケティングをしておくのもよい。
「コミュニティ」という方向性で、メディアについていろいろ考えてみるといいと思う。
ツーリズムというメディア
また農園は生産現場でのツーリズムというビジネスが1つありうる。
佐賀の嬉野茶が成功したらしいが、お茶畑で茶室をつくりそこで生産したお茶を飲んでもらう。
>> Tea Tourism -嬉野茶- ティーツーリズム
ついでに温泉など現地の他の観光資源もパッケージしてツアーにする。
景観の美しい場所、歴史や”オーガニック”などのブランド価値などで「嬉野」がブランド化するとプライスも取れる。
が、大儲けと言うとどうだろう。
地域の生産物が軒並み高単価になるほどのブランドとなればいいのだが、ツアー客が消費する程度ではスケールに限界がある気がする。
しかしこれも大きな枠組みの中のメディア戦術として見ると別の意味合いが出てくる。
今回のモデルで言えばレストランに来た客を美しい高原&グルメツアーに誘い、ツアーに来た客を各地のフランチャイジーに誘うという相乗効果を狙える。
その中で価値観を伝えあい顧客を含むコミュニティを育てる中で、増幅した価値が単なるいち農園ではできないビジネスになる。
「何を誰にいくらで」という古典的マーケティングはもちろん前提だが、それとともにFSPも含めさまざまなツールでネットワークをつくり、そこに新たな価値が創発するのを待つ。
■何を護るのか
というわけでまとめると、
- ジレットモデルの応用(スケール)xコミュニティ化のブランド戦略(単価&さらなるスケール)
- そのツールとしてのメディア
といった話なのだが、これは農業ビジネスには特に有効に思える。
それが先のない開発に頼らない、循環的で自然と共生する世界を護れるなら、本当に価値あることと思う。
農村地域を守るブランド
例えばこれはベトナムの山岳民族の住む地域なのだが、
この森を更地にせず自然と共生する暮らしを守る上でも、農業ビジネスの成否は重要になるだろう。
それにはジレットモデルを始めとする、自社生産&販売を超えるモデルが必要かもしれない。
例えば日本の小川町のように地域全体が有機農やってるようなところがB2B、B2Cともにブランディングすると強いように思う。
あるいはこれ👇️はベトナムで生産された、ベトナムの他の農家ではつくっていない超甘く美味しいトマトなのだが、
トマトに限らず地域の農家それぞれが品質の高い、個性ある農産物をつくれたら、相乗効果で地域自体がブランドになる。
自社の農園というより、そのコミュニティ自体のブランドで全員がそれぞれの生産物を高単価で売り、それが続くことがさらにブランドをつくるという循環が回り出す。
その意味的循環は、効率では不利な、しかし現代には重要さを増す循環的で農的な暮らしを支えることに繋がりうる。
農業のジレンマを超える
冒頭書いたが、農業にはスケールするのか、そのボリュームで安定生産できるか、そしてスケールしたら単価は維持できるのか、という大きな問題がある。
特に有機農などそのへんとても不安定で、工場の生産物を卸すのとだいぶ違うリスクがある。
農村を護るというならそのジレンマをなんとか超え、短視眼なビジネスに負けない利益を上げなければならない。
それにはコミュニティとしてのブランディングがかなり有効なのではないか、むしろ社会的価値との相乗効果で大きくプラスにできないか❓️というのが今回考えたことになる。
より一般化するなら
「早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」
ということで、そのためにビジネスモデルを組み合わせて自分のリソースがどう当てはまるかいろいろ抽象的に考えてみる、ということだ。
なおジレットモデル的にはサービス業と農業生産というまったく違う分野の両方でエキスパティーズできるかも大きなポイントとしてある。
ツールとしてのITにも目配りせねばならず、大儲けしたい経営者は大変だ😅
■新世紀のビジネスへ
そんなわけで冒頭に戻るが、高原の森を消失させるような大きな力が、新興国には渦巻いている。
それは経済的動機に基づいていて、実際経済的に苦しいひとは新興国にまだまだいる以上、必要なことでもある。
その力を活かして大きな循環をつくりだせるかが、21世紀のビジネスの使命なんでないかなと思ったりして、いろいろと考えてみた。
フランチャイズを成功させるだけでも大変だが、ジレットモデルを超え社会的な流れを作り出しそれに乗れれば、膨大な富がついてくるしそれは正当なことだろう。
逆に言えばこの容赦なく進む温暖化の時代に森を伐採してる場合じゃなくて、それは自分の足元を掘り崩しながら自分の墓穴を掘っているに等しい。
結局、ブランドのために社会的価値があるのではない。
価値があるからブランドになる、という場合に、長く続き利益を生み続けるブランドとなるのだろうと思うし、それがあからさまになる時代に私達はいるのだと思う。