2018年9月9日日曜日

ルーマニア辺境、神が棲む村・フモルルイ――ヨーロッパの田舎に住みたい(1)



この夏、東ヨーロッパとバルト三国、フィンランドと各国を周った。

もちろん旧市街などがある有名な都市部も素晴らしかったのだが、自然や文化と調和した郊外の小さな町が自分にはものすごく印象に残った。

観光というより、ここに住みたい、いや「暮らしたい」と思えた。

そんな小さな町、いや村の1つがルーマニアの辺境にある。

世界遺産のフモール修道院(Humor Monastery)とヴォロネッツ修道院(Voronet Monastery)がある、フモルルイ村である。

フモール修道院

■ルーマニア北部、フモルルイ村

フモルルイ(Humorului)村はルーマニア北部のブコヴィナ地方で最も大きな町・スチャバからバスで1時間くらいのところにある。

ヴォロネッツ修道院

スチャバからフモール修道院にはバス乗り継ぎで行けるが、ヴォロネッツ修道院は途中からタクシーかヒッチハイクしかない。

世界遺産の修道院群を周る方法は記事にまとめたので興味ある人はこちらを。

>> ルーマニア・ブコヴィナ地方の世界遺産、5大修道院を周る3つの方法

しかしフモルルイ村の魅力は修道院だけではない。

■伝統的な農村は圧倒的に美しい

ルーマニアは、特に田舎が「最後のヨーロッパ」と呼ばれたりする。

特にスチャバからホムルルイに向かう道中は、起伏に富んだ丘陵に沿って畑が広がる風景が圧倒的だった。

北部辺境は開発の手が届いておらず、農地ひとつ取ってもフラットに造成されていないのだ。

北部の丘陵地帯

よって自然な曲線がそのままに残り、機械も入りづらいので馬がまだ現役で、その風景の中に伝統的な家が点在する。

生産に特化して機能一辺倒になった農地はやはりつまらない。
他の様々な価値を、生産性という1つの価値のもとに踏み潰してしまっているからだ。

ルーマニア北部ではわらが独特の仕方で積まれている。


馬糞と麦わらはやはり堆肥にしたりしてるのだろうか。
ここの伝統的な農法ってどんなんなんだろう。

いろいろと想像を掻き立てられた。

■神の棲む村

ルーマニアの田舎には世界がこうなる以前、そこにあった何ものかが今も息づいている。

畑が広がる丘陵を抜け早朝フモルルイ村に着いた時、修道院に入る前から何か特別なものに包まれる感覚に襲われた。


溢れる緑と教会と、四角いコンクリではない家々がそこに調和していた。
おばあちゃんなどは洋服でなく伝統的な服?を着て、早朝から教会への道を掃除していた。


道を掃除している婆ちゃんにも、きらめくような子どもたちにも、朝の勤行を務める修道僧にも、荷駄を運ぶ馬にも、花にも木々にも麦にも、そのすべてを遍く満たす何ものかが溢れているのを感じる。

その中にあってこそ修道院もまた成立していて、それはカンボジアの遺跡ベンメリアが森と、その中に点在する村とともに成立しているのを思い出させた。


自分は一応仏教徒だが、はるか天上ではなく地上に、神は人々とともに棲んでいる。そんな風に感じた。

人間がアスファルトとコンクリートに隔てられる以前の神との関係がそこにあった。

■ガラスケースに入れるのでなく

「神または自然」と言ったのはオランダの哲学者だったが、それをルーマニアの田舎では実感する。

中心から遠くチャウシェスクの破壊も及ばなかったことは、ルーマニアだけではなく人類の僥倖であったと思う。


シャンゼリゼをコピーすべくただの近代都市になったブカレストは、あるいはアメリカへの憧れから作り上げた東京は、金太郎飴の近代が蔓延する世界の一相である。
それは自己嫌悪とともに世界を席巻する。

>> ブランドなき国の植民地化―情報時代の野蛮人から(2)

植民地、コミュニズム、グローバリズムと様々に姿を変えて何度も地上を洗った近代は、それでも人類の遺産を破壊し切れていない。

>> 世界に多様性を示す東ティモール――東ティモールから世界の未来へ(1)

古い建物を見物用に残して、伝統をガラスケースに入れて眺めるような病的な仕方ではなく、伝統を生きることでしか受け継げないものがある。

自分が「暮らしたい」と言うとき、それは単にそこに住むということを超えて、生きられた世界を生きることを含んでいる。あるいはそのことに含まれている。





その他、ヨーロッパの住んでみたくなる田舎町はこちら :)

リトアニア 湖の町・トラカイーーヨーロッパの田舎に住みたい(2)
スロヴァキア・遺跡の町デヴィンーヨーロッパの田舎に住みたい(3)

関連情報

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