2016年5月3日火曜日

糸島ロジカルな有機農~有機と自然のあいだ~



福岡に糸島というところがある。

都市圏・福岡天神から1時間くらいしか離れていないのに農村が広がり海もあり、とてもいいところなので移住者も多い。

電車で福岡国際空港まで直通で行けたりと利便性も非常に高い。

美しい糸島の山間部

自分は自然農を学べる場を作りたいと思っているので、こういう人が来やすく美しい農村地帯はものすごく可能性を感じている。

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■自然農に向かない?糸島

しかしこの糸島、自然農者にはいまいち評判が良くない。

自給程度にやるには問題ないのだが、作物を売って暮らすには育ちが悪すぎるらしいのだ。
場所にもよるが、例えば↓の畑も土が砂っぽくてそのままでは作物が育たない。

といって化学肥料と農薬を投入し続けて入れば結局土をダメにしてしまい、永遠にそれらに依存し続けることになる。

土が砂っぽい畑

↑の農地も慣行農法で長年使った後に放棄されていた場所で、それが土質に影響を与えている。
この状況で自然農というのは相当キツい。

奇跡のリンゴもできるまで7年かかったというが、通常それほど何もできない状態で続けられる農家はいない。

しかし今回訪問した新規就農の農家さんは、化学肥料も農薬も使うことなく、始めてほんの半年で十分な収量を獲られていた。

ここでの農法はオーガニック、有機農である。

農園主さんはきちんと化学式から勉強した理論家で、それをここで実践し、成功したという。

■土壌分析で悪循環を断ち切る

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糸島のどちらかというと痩せた土地を、農業に使うため化学肥料と農薬に頼る。

それによってさらに土地は痩せてしまう悪循環を断ち切って、有機農園として成り立たせる。
その鍵になったのが土壌分析だ。

慣行農法の影響

農園主さんいわく、慣行農法は「NPK(窒素・リン酸・カリ)しか見ていない」という。

しかし実際には土にはミネラルもあり、微生物もいる。
そもそも土の物理的な固さなども大きく影響する。

慣行農法ではNPKをコントロールして大きく太らせた野菜が、土から大量のミネラルを持っていく。
窒素過多で虫も来る。だから農薬も切らせなくなる。

NPKも大事な視点なのだが、このミネラル、微生物、その他の特性を総合的に考えないと、化学肥料と農薬で土地ごとの様々な差異を丸めてしまうしかなくなってしまう。

逆に言えば慣行農法とはそういうことを考えなくても作れてしまう、ポータブルで便利なレイヤーを自然と人間の間に差し入れている。

だから資本をかけて整備すれば手っ取り早く大量生産が可能となる。

でもそれが土を痩せさせ、人の思考も痩せさせてしまう。少なくともその危険性を常にはらんでいる。

例えば放棄してる農地を、「周りから何か言われそうだからとりあえず」で毎年耕したりすると、土が乾燥し、植物が全部ひっくり返されて新たに補給される有機物もないので、土からどんどん有機物がなくなってしまう。

今回訪問した畑はまさにそういう圃場で、周囲の農家さんからは化学肥料使わんかったらできるようになるまで何年もかかる、と言われていたらしい。

土壌分析と施肥デザイン

ここの農場さんの強みは、学校で学び、できるまで何度も土を取り寄せては練習を繰り返し身に付けたという土壌分析にある。

土壌分析はキットがあって、ネットでも購入することができる。例えばこういうの↓


これで土地の状態を測ることが可能になる。

ここの農場ではミネラルなども含めた分析ができる富士平工業の「農家のお医者さん」というものを使っておられた。
分析結果と作物に必要なものと突き合わせ、足りないものを補充していく。

ここで有機JASを指標に、自然素材のものにこだわって施肥すれば、名実ともにオーガニックな作物を作ることが可能となる。

例えばカルシウムが足りない場合、牡蠣の焼き殻が有効らしい。

そうして必要なものを検出して、調達してまくと、見ての通りきれいに作物が育ってゆく。

とても何も育たなかった土壌だったとは思えない

■有機的なロジック

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この農場も、最初何もせずに植えたときには全然作物が育たず、仕方がないのでほとんどベビーリーフで収穫していた、という(^_^;)

それがその時点での土地の実力だったわけだ。
それをケミカルを使うことなく様々に補って、短期間に作物がよく育つ状態にまで持って行った。

その陰には目の前で起こっていることから学び続ける、真摯な学習のプロセスがあった。

ロジカルな畑

この農場がたどった軌跡は、「ロジカルな田んぼ」という本で書かれていたこととよく似ている。

本の著者である農家さんも最初は何も手を加えず田植えしてみて、田んぼの実力を見極め、そこから様々に必要なものを投入して成功している。

ここの農場では、土地の物理性、虫対策にCHO(炭素、水素、酸素)コントロール、ミネラルの補い、微生物、くらいの4つの視点があったように思う。

作物ごとにそれぞれ必要なものがあり、それを補うオーガニックな対策方法がある。
それをこの4つの視点で浮き彫りにしてゆく。

農園主さんの栽培理論は非常にロジカルだが、このロジックは慣行農法のそれと全く違う。

慣行農法が力技でねじ伏せるようにして、普遍的にどこでもやれるためのロジックであるのに対して、ここの理論は糸島の地に適った方法を常に動的に模索していく、そのための糸島ロジックであるということだ。

よく言われる持続可能性は、こういう動的な対話と学習プロセスの上にこそある。

「機」が「有る」ということ

農に限らず、対話と学習はあらゆることの根本にあるものだ。

それは技術以前の話であって、例えば「オーガニックが正しいのになぜやらないのだー!」と脅しては嫌がらせを仕掛けるような、自分の思い込みを押しつけるあほくんに、オーガニックは絶対に推進できない。

人が自分なりにものごとに反応すること自体を凍りつかせてしまうので、そこで起きることは何であろうと有機ではない。

さらに、それは栽培だけの問題ではない。

状況と対策を知ること、自然な対策資材を実際に調達できること、高質な販路を確保すること、そもそも経営上必要な作物を知ること。

そういったそれぞれの「機」を捉え対策に動くこと。それら経営上の問題と栽培技術が根本の理念のもとにオーガナイズされ、それこそオーガニックに反応しあうこと。

畑で風に揺れる野菜が成立する裏には、これだけの「機」の相互作用が「有る」のだ。

■有機農業と自然農のあいだ

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お話を聞いていて、自分がやりたい自然農は糸島ではかなり苦戦しそうだ、と思った。

自分は農を生産だけとは考えておらず、それ以外の文化的・環境的価値を伝えるビジネスこそが必要だと思っている。

ただ、そうは言っても目の前に作物ができ、それを食べることができる、というのは根本的な価値で、それが無ければやはり実感の重みが違ってくると思う。

ビジネスと「機」

食える、という言葉は生活できるという意味でもある。
自分らしい生活は、食えなければできない。

作物がわさっと穫れる単純な喜び、それは感じ取らねばならない大事なこと

では糸島という土地で、有機農をやったらそれは自然とは言えないのか?

自分は違うと思う。

農園主さんは無駄にクレームばかり多い販路は嫌だと言っていて、実際にそこでは売っていない。
納期に厳しい販路も嫌だと言っていて、そこも切っている。

それは有機農の現場も価値も知らず、知ろうともしない態度だ、と感覚的に気付いているのだと思う。

そしてここが大事なところなのだが、その感覚にきちんと従って、経営上の判断を下している。
それは糸島という土地で、栽培上必要な手を次々と打つということと完全に一貫している。

有機とは、何らかの「機」にすべての要素が、それぞれ反応するということだ。

「機」を捉えるもの

そして何か手を打つ機を捉えるのは、自分の中の自然、感覚だ。
それに耳を傾けず打つべき手を打たないのは、自然農では「自然ではない、それは放任だ」と考える。

ならば自然農は有機なのだ。
少なくとも別の何かではなく、重なりあう何かだ。

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さらに言うなら、先に書いたミネラルを補給するために入れる牡蠣殻は、牡蠣小屋がいくつもある糸島では捨てている資材だ。

それをうまく使うなら、それは余剰を有効利用するパーマカルチャーであるとも言える。

そう考えると、いろんな農法の「あいだ」はない。

その農法を何のために使うのか、それを自分の感覚は深く喜んでいるのか、にこそ分け目があるのだろう。その意味では慣行農法すら、”自然”であり得るかもしれない。

■糸島で有機農を

農園主さんは自分の知識や技術を若い人(というか本人も若いのだが(^_^;))に伝えたいと思っている。

生産販売だけでなく、コンサルティング、学校、イベント、そういったことに取り組みたいとのことだった。

技術的なことに感心するとともに、経営姿勢やビジネスの方向性にものすごく共感した。
いつか一緒にイベントでも打てればと思うので、興味ある人はぜひ来てほしい!^^

。。いつになるか分からんのですけども<(_ _)>(^_^;)


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